カネミ検診認定狭き門 救済法施行後3.9% 診断基準なお高く

  • 2018年11月16日
  • 2018年11月19日
  • PCB関連

国内最大の食品公害「カネミ油症」が1968年10月に発覚して半世紀。被害者救済法が施行された2012年度以降の6年間で、自治体の検診を受けた未認定者延べ918人のうち、患者認定されたのは36人で、認定率は3・9%にとどまることが分かった。被害が集中した長崎県五島市では、油症の現状、救済の在り方を考える「集い」が17日開かれる。検診認定のハードルの高さは顕著で、被害者団体は認定基準の見直しを求め続ける。

厚生労働省によると、12~17年度は115~252人が検診を受けた。認定されたのは各年度2~16人で、認定率は最高でも12年度の6・3%だった。

カネミ油症は、カネミ倉庫(北九州市)製の米ぬか油の製造工程でポリ塩化ビフェニール(PCB)などが混入し、PCBが熱で猛毒のダイオキシン類に変化したのが原因。認定は、血液検査や皮膚症状などを踏まえた医師の「総合判断」だが、診断基準は血中のダイオキシン類濃度を重視する。

患者認定を巡っては、発覚当時に患者と食卓を共にして油を摂取した家族でも血中濃度が低い人がおり、頭痛や倦怠(けんたい)感を訴えても未認定となる問題があった。救済法はこうした課題に対処するため、発生時の患者の「同居家族」に救済対象を拡大。この枠で認定申請した人の99%が患者認定され、医療費などの公的支援を受けられるようになった。

一方で、油症が確認された1968年の翌年以降に生まれた子は同居家族から除外され「油症2世」は救済の蚊帳の外という現状もある。偏見や差別を恐れて検診を受けてこなかった人、外食でカネミ油を摂取した出稼ぎ労働者たちも検診で診断基準を満たす必要があり、通常の検診での認定は狭き門となっている。

厚労省・全国油症治療研究班長の古江増隆・九州大教授は「認定基準は医学的根拠に基づいて油症と診断できるぎりぎりのレベル。基準に満たない人を認定するには政治的判断に委ねるしかない」としている。

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数値重視で「切り捨て」 患者団体

福岡、長崎両県など西日本を中心に、約1万4千人が頭痛や重い皮膚症状、爪の変形などを訴えたカネミ油症事件。原因物質のダイオキシン類濃度が2004年に盛り込まれるなど、この50年、認定の基準は5回にわたり見直されてきた。ただ、数字が絶対視される形にもなっており、患者団体は「切り捨てにつながっている」と数字ありきの認定に批判の声を上げる。

長崎大環境科学部の戸田清教授(環境社会学)は「半世紀で原因物質の体外排出も進んで認定患者でも数値が下がっている人はいる。診断基準は重視できない」と指摘。根治する治療法が見つかっていない状況で「証言や自覚症状で認定するなど制度を大きく見直さなければ、真の問題解決にはならない」と訴える。

被害者救済法に基づく患者団体、国、カネミ倉庫の「3者協議」で、患者側は「認定基準をなくし、油を摂取したかどうかで判断してほしい」と重ねて要望しているが、国側は「基準には医学的根拠がある」との立場。根本匠厚生労働相は就任後の10月のインタビューで「2世も診断基準を満たせば認定されている」との見解を示した。

カネミ油症の認定患者は西日本地区を中心に2322人(今年3月末、死亡者を含む)。12年度から6年間で、自治体の検診で患者認定されたのは長崎県16人、福岡県6人、熊本県が1人だった。2世、3世への影響を含め、被害の実態解明は進んでいない。

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五島で17日、発覚50年の集い

17日の「油症の経験を未来につなぐ集い」(五島市福江総合福祉保健センター)は、市や被害者団体などでつくる実行委員会が主催。1979年に発覚した台湾油症の女性被害者が、2世の救済制度が日本と異なる台湾の事例などを報告する分科会がある。当日参加可能。市国保健康政策課=0959(74)5831。

 

平成30年11月16日 西日本新聞より

 

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