カネミ油症の影響は汚染された米ぬか油「ライスオイル」を直接食べた人だけでなく、子や孫など次世代にも表れている。大阪府に住む認定患者の男性(54)の長男(23)もその一人だ。

長男は物心ついたころから、顔や背中にできる「ひどいニキビ」に悩まされてきた。服やかばんでこすれると腫れたり膿(うみ)がつぶれたりし、数カ月に1回、皮膚科で塗り薬をもらう日常が続いている。朝起きた時、目やにが固まってまぶたがくっつき、簡単に目を開けることができない。「高校生くらいから人とは違う体質だと意識するようになった」と振り返る。

国指定の油症治療研究班が実施する油症検診に2回行ったが、いずれもダイオキシン類の数値が基準値以下で、患者として認定されない。医師からは「ニキビは年齢からくるもの」「そんなに目やにが出るのはおかしいが原因は不明」と言われた。「真剣に向き合ってもらえず、納得のいく説明はない。自分の置かれている状況を知るため、患者として認定されたい」と話す。

父親は3歳の時、北九州市でカネミ倉庫製のライスオイルを食べた。両親やきょうだい、一家全員が患者認定を受けた。いまでも毎月のように背中に大きなおできができ、放っておくと5センチ大に腫れ上がる。父親は「息子に影響が及んだかと思うと、申し訳ない気持ちになる。油症の影響が人生の足かせになってほしくない」と長男を見つめる。

厚労省が2008年度に認定患者を対象に行った健康実態調査では、回答者のうち約4割が、事件発生後に生まれた子どもに身体症状があると答えた。そのうち3割以上が湿疹ができやすい、疲れやすい、鼻血がよく出る-などの症状があると回答している。

油症の原因物質ポリ塩化ビフェニール(PCB)やダイオキシン類は、母体から胎盤や母乳を通じて子どもに影響するとの研究結果はあるが、実際に患者認定を受けている子や孫世代は多くない。

長年ダイオキシンの研究に取り組んできた摂南大の宮田秀明名誉教授(73)は「ダイオキシン類が胎児に与える影響の研究は進んでいない。大人より低い濃度で毒性の影響を受ける可能性は高いが、大人の基準値を当てはめて診断し、患者認定に至らないのが実情だろう」と指摘する。

次世代への影響を調査するため、油症治療研究班は「50年がかりの調査が必要」とする。父親は「ここに来るまでに50年たった。さらに50年なんて待てますか。いま苦しんでいる人は救済されないままですか」。静かな口調に、ぶつける先のない怒りがにじんだ。(小尾絵生)

【次世代を取り巻く問題】カネミ油症事件の患者から生まれた子や孫は、血中のダイオキシン類などの濃度が一般人とほとんど変わらず、身体的な症状があっても油症患者と認定されるケースは少ない。症状は幅広く、黒い皮膚▽低体重▽ぜんそく▽虚弱体質▽歯や骨が弱い▽発達障害-などが報告されている。差別を恐れて親が被害を伝えず、油症の影響を知らない子や孫世代もいるという。
平成30年7月31日 神戸新聞より