カネミ油症発生50年 患者救済、道半ば 国、企業側は補償拡充に難色 「3者協議」手詰まり状態

1968年に西日本一帯で被害が広がった国内最大の食品公害「カネミ油症」の発生から、今年で50年。2012年に被害者救済法が施行され、被害者への支援金などの枠組みができた。ただ、同法に基づき患者団体と国、原因企業が定期的に支援策を話し合う「3者協議」は手詰まり状態。患者認定の拡充などを訴える患者側と国、企業側の対立が解けず、協議自体の形骸化も懸念されている。

「子どもは安い給料から月2万~3万円を治療費に充てている。国には、被害者を救うという気持ちを持ってもらいたい」

1月20日、福岡市で開かれた11回目の3者協議。認定患者の女性(64)は、自らと同じように皮膚疾患に苦しんでいる未認定の息子や娘の窮状を訴えた。

厚生労働省の全国油症治療研究班の調査研究で、油症の原因物質ダイオキシン類は母乳や胎盤を通じ、母から子に移行することが確認されている。患者団体は認定患者から生まれた事実によって、子を患者に認定するよう求めてきた。

協議は非公開。出席者によると、厚労省は2世救済について「ダイオキシン類の血中濃度は一般人と大きな差がない。2世であるだけでは認定できない」と説明したという。

患者団体は、症状軽減に効くはり・きゅうの民間療法、入院中の食費など補償の拡充も求めている。原因企業「カネミ倉庫」(北九州市)の加藤大明社長は「医療費だけで年間約1億円の負担があり、これ以上は厳しい」と答えた。

「3者協議を5年近く続けているのに、ほとんど進展しない」。長崎県の「カネミ油症五島市の会」事務局長の宿輪敏子さん(56)はいら立ちを募らせる。

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カネミ倉庫は、健康保険が適用される患者の医療費の一部を負担。さらに超党派による議員立法で救済法が成立し、国が健康実態調査の協力費として年間19万円を、同倉庫が年間5万円の給付金を支払っている。

こうした補償を受けられるのは、被害を訴えた約1万4千人のうち患者認定された約2300人だけだ。患者団体は、13年6月から年2回ほど開かれる3者協議の場で、未認定の被害者の救済や保険対象外の医療補償を求めてきた。

「一定の成果はある」。厚労省の担当者は協議の意義を強調する。患者の意見を踏まえ、患者が窓口で費用を肩代わりせず受診できる「油症患者受療券」について、使用できる医療機関数を13年の323カ所から昨年末には590カ所に増やした。協力費の支払い時期も、年度末から9月末に繰り上げたという。

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とはいえ、いずれも抜本的な救済策ではない。患者団体の男性は「支援のアリバイづくりで協議を続けているだけだ」と批判する。

事態を打開するため、患者団体は1月の協議で、原因物質の元になったポリ塩化ビフェニール(PCB)の製造元企業、カネカの参加を求め、国に要望書を出した。同社は2年半前に患者団体との面談を断った経緯もあり、協議に加わるかは見通せない。

1月の協議を体調不良で欠席した「油症医療恒久救済対策協議会」の矢野忠義会長(85)は「国もカネミ倉庫も同じ説明を繰り返すだけ。結局、政治家を動かさないと変わらない」と話した。

【ワードBOX】
1968年にカネミ倉庫製造の食用米ぬか油を摂取した約1万4000人が、皮膚炎や肝機能障害などの被害を届け出た食品公害事件。米ぬか油にポリ塩化ビフェニール(PCB)が混入したことが原因とされる。認定患者は福岡、長崎両県を中心に約2300人(死亡者を含む)。2012年施行の被害者救済法は、国が被害者の生活や医療費を支援することを掲げ、カネミ倉庫への経営支援や3者協議の開催を明記した。患者の認定基準に「既に認定されている患者の同居家族」が加わったが、69年以降に生まれた認定患者の子どもの救済は実現していない。

2018年3月22日 西日本新聞朝刊より

 

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